毎日、何人かの患者さんがこう訴えて病院を訪れます.でも、疲れのとれる注射とか元気のでる点滴なんて本当にあるのでしょうか?たぶん、ビタミン剤の注射や点滴の事を指しているのだと思いますが、これには大きな誤解があります.
現在、普通の食事をしている人に栄養が不足している事はほとんどありません.むしろ、栄養の取り過ぎ、すなわち肥満や高脂血症、及びそれに起因する病気の方が問題なのです.また、「仕事で疲れるからビタミン剤を・・・」という方もいますが、仕事の疲れは休養で取るものです.病気でなければ薬で治す事ではありません。
ビタミン剤といわれる注射液は、普通ビタミンB1,B2,B6,B12等が主成分です.しかも、その中のビタミンB1の量は市販のビタミン剤(たとえばアリナミンA
25mg錠)の 2粒分位です.ですから、それを 2粒程も口から摂取できない人には、この注射が必要かも知れません.
特別な病気でビタミン
B6やB12を必要としている人でも、口から薬が飲めればそれで足りるのでわざわざ痛い思いをする必要はありません.ようするに、薬が体に入る時の入口と吸収の早さが 30分か1時間違うだけの事です.注射をするとすぐ効くように思っている人は、注射液が急激に体の中に入るのですぐに薬の臭いがしてきたり、おしりの周りがムズムズしたり、体が少し暖かくなる事を、注射薬が効いたように錯覚しているだけなのです.
普通の点滴液
500mlは、約 25gのブドウ糖と約 0.5gの食塩が主成分で、これ1本分の栄養価は
250mlの缶入りコカ・コーラとほとんど同じです.特別な薬物ではなく、この点滴
4本分(2000ml)で、1日に必要な水分と食塩とわずかな糖分が補給できるのです.通院していてこの点滴が必要になるのは、下痢や嘔吐が激しくて脱水状態になっている人です.点滴する事によって水分を補給し、その間、物を食べずにいて胃腸を休めてやる必要のある人です.食事を摂取できる人で、点滴が必要になる事は、ほとんどないと言っても過言ではありません.
「〜は、点滴をしながら試合に出て頑張った.」などとニュース・キャスターが解説しているのが、どの位理屈に合わないことかおわかりでしょうか.製薬会社のコマーシャルも困りものです.リポビタンDを飲んでいるのは、岩山に登り終えた後です.栄養剤を飲んだからといって、休養なしで仕事が続けられるわけではありません.こうした誤解が過労死等という信じられない不幸を招く原因のひとつかもしれません.
重病で、入院するような状態の人では、水分補給以外の目的でも点滴が使われることがあります.中心静脈栄養と言ってすべの栄養を点滴だけで補う事もできます.必要とあらば、たとえ1ヶ月間食事をしなくても体重を増せるくらい点滴の技術は進歩しているのです.でもそれを必要とする患者さんは、まったく特別な状態の方なのです.
