臨床検査の結果は、どのくらい的中するか?

臨床検査の信頼度を評価するのに、感度と特異度があります.特定の病気に罹患している集団に対して検査を行ったとき、陽性(異常値)を示す割合(真の陽性率)が感度です.逆に、特定の病気に罹患していない集団に対して検査を行ったとき、陰性(正常値)を示す割合(真の陰性率)が特異度です.検査の感度を上げようとすれば特異度は下がり(偽陽性が増える)、特異度を上げようとすれば感度が下がる(偽陰性が増える)というジレンマは付き物です.

ところで、 同じ検査でも対象集団の条件によって的中する確率に差がでます.たとえば、感 度 99%、特異度 99%(=偽陽性率 1%)の検査を、有病率 10%のA・地域と、有病率 1%のB・地域で行った場合、真に陽性である確率(陽性的中度, Positive predictive value : PPV)はどのくらい違いがあるのでしょうか?* 

 

10,000人のA地域(有病率10%)と,B地域(有病率1%)での比較

A・地域(対象:10,000人、有病率:10%)

病  人:1,000人(10%)、このうち検査陽性者:    990人(99%)

健常人:9,000人(90%)、このうち偽陽性者   :      90人( 1%)  (+

                     検査陽性者の合計:1,080人
∴ 真の病人は 990人なので、的中度( PPV)(990/1080) 91.7%

B・地域(対象:10,000人、有病率: 1%)

病  人:  100人( 1%)、このうち検査陽性者:    99人(99%)

健常人:9,900人(99%)、このうち偽陽性者   :    99人(  1%)   (+

                    検査陽性者の合計:  198人
∴ 真の病人は   99人なので、的中度( PPV)(  99/ 198) 50.0%

同じ検査でも、検査対象の条件によって、的中する確率が2倍も違うという結果です.

 

関節リウマチは、発病初期の診断が困難なことも多いため診断基準**が作られています.その中に、リウマトイド因子・陽性という項目もあります.いくつかの検査方法(リウマチ ・テスト)があり、関節リウマチの 75〜90%位に検出されます.健康人の 2〜5%位でも陽性になり ます.高齢者の陽性率はもっと高く、75歳以上では 5〜25%位が陽性になるといわれています.SLEやシェーグレン症候群など他の膠原病、結核の既往、慢性肝炎等多くの疾患でも陽性率が高く、この検査結果だけから関節リウマチの診断は出来ません.

リウマチ・テストの感 度を 80%、特異度を 98%と仮定して同じ試算をしてみました.関節リウマチの有病率を約 1%***と考えても、陽性的中度は 28.8%# にしかなりません.すなわち、人間ドックで無作為にリウマチ ・テストを行い、たとえ反応が陽性に出ても /3以上は”ハズレ”です.一方、 患者さんの訴えや症状、とりわけ特徴的な関節所見などから関節リウマチが少なくとも 50%以上の確率で疑われる場合、陽性の結果であれば95%以上の確率で診断が確定できると考えられます.

検診やドックの結果に表示される、C,D等のグレードのように、単純で機械的に
病気の診断がされることはないでしょう.近年、簡便な検査キットや有効性の高い抗ウイルス剤が開発されたので、毎年冬に流行するインフルエンザ診療の質も格段に向上しました.その検査キットでも、夏と冬では的中度が 3倍位違うことが試算できます****.病歴や臨床症状など充分な情報を得た上で検査項目を選択し、総合的に結果を評価しないと大きな間違いを起こしかねません.日々の診療にあたり、こうした点にも注意するように心がけています.

参      考

* 

日本内科学会認定更新委員会編、2005年度認定内科医・認定内科専門医のためのセルフトレーニング問題集(A)

**  ACR 関節リウマチ診断基準(1987年)
***

2005年リウマチ白書によると、日本人の関節リウマチ有病率はおよそ 0.6%(人口1,000人あたり6人)です.
有病率1%、感度80%、特異度98%と考えて試算すると、
陽性的中度=(0.01*0.8)/{(0.01*0.8)+(0.99*0.02)}=0.288(28.8%)

****

インフルエンザ・検査キットの感度は85%位、特異度は98%位といわれています.仮に、冬のインフルエンザ流行時では 体温38度以上の発熱者の30%位がインフルエンザとします.一方、夏の流行してない時期の発熱では、夏風邪ウイルスなどによることが多いので、インフルエンザの人は1%位として試算してみます.発熱者に対して無作為に検査をして的中度を比較するとそれぞれ 95% と31% で約3倍の違いがあります.すなわち、冬に陽性反応が出たら、ほとんど間違いなくインフルエンザといえますが、夏におなじ検査をして陽性反応が出ても、2/3 以上が ”ハズレ”ということになります.

有病率:

集団における疾病の発生頻度を表す数値です.調査した時点で、集団の疾病に罹患している人の割合をいいます.従って、以前疾患に罹患していた人の中で治癒した人や亡くなった人は含まれていません.たとえば、治りの早い伝染病が一時期に大発生した場合、時間と共に有病率は急上昇しますが、治る人が増えるに連れてその率は低下します.一方、死に至るような伝染病が大発生して、一時に大勢の人が亡くなってしまうと有病率は低いと言うことも起こりえます.有病率だけで疾病罹患の全体的な割合すなわちリスクと考えるのは適当ではありませんが、今回のようなケースを考える場合には、有病率を用いるのが適当と考えられます.

罹患率

ある一定期間内で集団に新たに生じた疾病の数を割合として示すもので、「発生率」とも言います.[罹患率=発生数÷(対象人数×期間)]

  

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