はじめに

現在、広く私たちが服用しているお薬も、元はといえば薬草(≒ハーブ、漢方薬≒Herb drug)や食品が出発点のものがたくさんあると思います.薬草に含まれるいろいろな成分の中から薬効のある成分を化学的に分析、抽出して純化し、さらに作用を強めたり、副作用を減らしたりの工夫をして合成されたものが、普段服用しているお薬です.

 

アスピリン

たとえば、鎮痛解熱剤のほとんどは、 アスピリン が出発点ですが、それは、柳の樹皮に含まれるサリチル酸から合成されたお薬です.柳の樹皮に鎮痛効果のあることは古くから知られており、お釈迦様がいつも柳の枝をくわえていた事はお経にも書かれているそうです.その頃すでに、柳の枝で出来た爪楊枝や歯ブラシを使うと歯の痛みが楽になることを知っていたのだろうと 推察できます.

そのサリチル酸は、鎮痛解熱効果がありましたが、あまりに胃腸障害が強かったため、その副作用を減らす目的で、アスピリンが合成されました.今では、このアスピリンよりも鎮痛効果が強く、胃腸障害の少ないお薬がたくさん開発されています.この鎮痛解熱剤の仲間は、少量だと血小板凝集能を抑制する作用 (サラサタ血にする作用)があるため、脳梗塞や心筋梗塞の予防薬として安価なアスピリンが今でも使われています.

 

抗生物質やEPA

カビから抗生物質ができた経緯は有名な話です.(ペニシリンができた話).鉱物である苦汁(にがり)の成分 (マグネシウム)は下剤 になっています.

デンマークの孤島 で魚をよく食べる住民と、酪農が盛んで乳製品や肉をよく食べる本土の住民との間で、心筋梗塞の発生率に大きな差がありました.その原因を探る課程で、魚の脂に含まれる不飽和脂肪酸 ( EPA DHA等) の役割がわかってきました.これは食品からお薬ができた最近の例です.

 

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漢方薬の信頼性

お薬と食品や薬草(≒漢方薬)との境界は曖昧です.根本的な違いは、「純化してあるか」、「二重盲検法による薬効の検定がしてあるか」ということのように思います.

漢方薬が信頼性に欠けるのは、この両方をやらないからではないでしょうか. 「4000年前から…」という神秘性を訴えたり、「副作用がない」という根拠の乏しい思い込みに甘んじたりして正確な検定を行わないことが、その信頼度を低下させている原因ではないかと、私は考えています.



金川の河原一面に繁茂した「葛(くず)」
、根を刻んだものが”葛根湯”.
根からとったでんぷんで葛餅、葛湯ができる

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漢方薬・健康食品の副作用

小紫胡湯という漢方薬が肝炎の治療に使われることがありますが、これが肝炎に有効であるという二重盲検法や大規模比較試験の報告はありません.

最近、これが間質性肺炎という致死的な副作用を起こすという警告が厚生省から出されました.特にインターフェロン治療と併用すると危険性が高いと言われています.

甘草(カンゾウ)という保険薬・健康食品等にしばしば入っている漢方は、グリチルリチンという成分を含みます.これを長期に服用すると偽アルドステロン症を引き起こして血中カリウム値の低下を招き、不整脈や高血圧等の原因となっていることがあります.

セント・ジョ−ンズ・ワートという健康食品の成分は、テオフィリン( ユニコン™、 テオドール™、 スロービッット™ 等)という喘息薬、 ワーファリン™ という血栓防止薬、 ジギタリス という強心剤、移植後に使う免疫抑制剤との相性が悪く、副作用が誘発されたり、効果を弱めてしまうことがあります.

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食品に対する思い違い

食品についても、健康を維持するためにいろいろなものを片寄りなく摂取する事は大切なことだと思います.糖尿病、腎臓病、高脂血症等の患者さんに食事指導をしたり、貧血の人に鉄分の摂取を勧めたりするのは、当然治療の一環です.これだけで充分な方もいれば、それだけでは足りず、お薬の力を借りなければならない方も大勢います.

しかしながら、食品の何かだけをたくさん摂取したからといって、病気の予防になったり、治療の代わりになったりという事が証明されている例は少ないと思います.この点が、多くの栄養学者やその話を聞かされた人達が大きな思い違いをしている部分だと思われます.

食品中の各種成分が、体の代謝でそれぞれ重要な役割を担っている事は確かです.それが不足すれば、機能が維持できなくなることも間違いありません.でも、大切な成分だからといって、その成分を必要以上に摂取したら、より健康になったり、病気が治る根拠はどこにもありません.

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困った特定保健用食品

食品中の成分が、健康への効用を示す表現を付けることを国が許可した「特定保健用食品」という制度も、時々困った問題を引き起きしています.「ア○ー○S」という飲料で高血圧症の治療薬を、「蕃○麗○」というお茶で糖尿病の治療を止めてしまい、不幸な結果になった患者さんもいるのです.これらの食品には、「高血圧症の予防および治療を目的としたものではありません」とか、「疾病が治癒するものではありません」とか、「糖尿病の治療を受けている方や糖尿病の疑いのある方は、医師などの専門家にご相談のうえご使用ください」とか、小さく記載されてはいます.ところがテレビのコマーシャルや、ホームページ上では、「血圧が高めの方に毎日1本」とか「食後血糖値上昇抑制効果」等とあたかも治療薬のように宣伝されているのです.「健康への効用」を「病気が治る」と誤解することを初めから計算し、企業に便宜を図った、世界でも類を見ない極めて悪質な制度とも言われています.

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ベータ・カロチン

ベータ・カロチンは緑黄色野菜の成分で、健康維持には重要な役割を担っているのは事実です.かつて、これを摂取するとガンの予防になるといわれた頃もありました.重要で必要な成分であるという所までは真実でしょうが、ガンの予防になるというのは、その作用機序からの推測(願望)でした.

欧米で、ベータ・カロチンの大量摂取の大規模比較試験が行われましたが、有意差が得られたのは、「摂取グループの方に悪性リンパ腫の発生が多かった」という結果だそうです.最近、サプリメントでベータ・カロチンの声が小さくなったのには、このような経過があるからではないでしょうか.

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ビタミンCとアルコール

「ガンに対してビタミンC大量療法が有効」というポーリングの治験報告は、その後の詳細な解析の結果、投与グループには原発巣を切除した者が多く含まれていたという母集団の違いに起因した誤りのためとされています.

「少量のアルコール摂取者の方が全くアルコールを摂取しない人よりも長生きであった」という統計データーも、アルコール非摂取グループに、肝硬変や重大な病気の末期等で医者からアルコール摂取を禁じられている人達が多く含まれていたという統計処理上の誤りを指摘されています.

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ポリフェノールは?(赤ワインの効用;フレンチ・パラドクス)

欧米で、脂肪摂取量に比例して動脈硬化性の心疾患(狭心症や心筋梗塞)が増加する中で、フランスだけに、これが少ない現象がみられ(フレンチ・パラドックス)、この説明としてポリフェノールの抗酸化作用が有力視されるようになりました.

ポリフェノールも、抗酸化作用を持つ重要な物質なのは事実でしょうが、赤ワインをたくさん飲むフランス人が日本人よりも長生きだという話は聞いたことがありません.

ある種の腸内細菌がポリフェノールを分解すると発ガン物質ができ、大腸ガンになりやすいという報告もあります.正しい評価が出るまで、もうしばらく慎重に経過を見守る必要があると思います.

 

 

チャイニーズ・レストラン症候群

化学調味料のグルタミン酸ソーダ(MSG)を摂取後して30分位すると、脱力感や眠気を引き起こす人がいます.日本ではあまり問題にされませんが、欧米ではMSGを沢山使う中華料理を食べると、この症状の出る人がいるため、Chinese Restaurant Syndrome として知られています.

 

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